2011年度第41回天文・天体物理若手 夏の学校

2011年8月1日(月)〜8月4日(木) @愛知県西浦温泉 ホテルたつき
東北地方太平洋沖地震で被災された方々に、心よりお見舞い申し上げますとともに
被災地の1日でも早い復興をお祈りいたします。



招待講演一覧


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重力崩壊における量子論的粒子生成
分科会: 相対論 8月1日14:00-15:00講師: 原田 知広 (立教大学)
重力崩壊とは物体の重力が非常に強くなるために圧力では抗しきれなくなって物体が自ら潰れていく現象である。一般に重力崩壊が進むと相対論的な重力場が重要になってくる。そこでは曲がった時空における場の量子論的な効果が顕著になり、Hawking輻射を始めとする量子論的な粒子生成と輻射が起こると考えられる。本講演では、はじめに一般相対論に基づいた重力崩壊に関する基本的事項と曲がった時空における量子論的な粒子生成の基本的事項について簡単に説明する。つづいて球対称重力崩壊時空における量子論的粒子生成について解説する。さらにこれをいくつかの具体的な重力崩壊時空解に適用してどのような粒子生成が起こるのかについて紹介する。最後に、その物理的な意味と問題点、今後の展望について述べる。

セッション相対論>招待講演一覧
物性理論へのAdS/CFT対応の応用
分科会: 相対論 8月3日10:15-11:15講師: 前田 健吾 (芝浦工業大学)
ある種の重力理論と強結合ゲージ理論が等価であることを主張するAdS/CFT対応は、クォーク・グルーオンプラズマにも応用され、威力を発揮した。この対応をさらに応用して、近年重力理論による超伝導体などの凝縮多体系の解析が注目を集めている。本講演では、AdS/CFT対応がどの様に応用されているのかを簡単に概説した後、2008年から始まったこれまでの一連の研究の流れを紹介する。

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宇宙のトポロジーを測る
分科会: 宇宙論 8月2日13:30-14:30講師: 井上 開輝 (近畿大学)
近年の観測技術の飛躍的進展に伴い、「宇宙はどこまで続いているのか?」という問いに科学的に回答できる時代になった。もし、空間が観測可能な領域内で閉じていれば、閉じた方向に沿って光線がぐるぐる回ることになり、まるで万華鏡をのぞいた時のように、ある特定のパターンが周期的に繰り返す宇宙を我々は観測することになる。このような非自明な「形」(トポロジー)をもつ有限な空間は曲率が一定でも大域的な一様性や等方性が破られるため、一様等方な空間に比べゆらぎの統計的性質が変化する。これらの徴候を検出するためには、現在の地平線スケールと同程度以上のスケールにおける空間の揺らぎを測定しなければならない。本講演では、初めに非自明なトポロジーをもつ空間的に閉じた宇宙モデルを紹介し、次に観測的制限をつける手法について述べ、最後に宇宙マイクロ波背景輻射などの2次元データによる制限の現状と3次元データによる将来の観測的制限など今後の進展について手短かに述べる。

セッション宇宙論>招待講演一覧
宇宙の大規模構造と宇宙論
分科会: 宇宙論 8月3日11:30-12:30講師: 松原 隆彦 (名古屋大学)
宇宙論の分野において、宇宙の大規模構造は理論的な宇宙モデルを制限するのに有用な方法であり続けてきた。1990年代にはコールドダークマターモデルに基づいた標準的宇宙論が確立する上で主要な役割を果たした。2000年代には、ダークエネルギーの性質を調べる重要な方法のひとつであることが明らかになった。また、初期ゆらぎの非ガウス性を通じてインフレーション理論を制限する有力な方法になることが判明した。このような進展を受け、2010年代以降にはさらに野心的な大規模構造の観測が世界中で計画されている。今後は宇宙マイクロ波背景放射の観測などと共に精密宇宙論の要になるだろう。本講演では、大規模構造と宇宙論にまつわるこのような話題を初心者向けにお話したい。

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ニュートリノ物理学
分科会: 宇宙線 8月1日15:00-16:00講師: 塩沢真人 (東京大学宇宙線研究所)
これまでの大気ニュートリノ振動と太陽ニュートリノ振動現象の研究により、素粒子ニュートリノが質量を持ちかつ三世代間で混合していることが明らかになった。実験から示唆されるニュートリノ質量は他の素粒子に比較して100万分の1以下と極端に小さく、標準理論で仮定されているヒッグス機構とは違う未知の質量生成機構が働いていると考えられる。また判明している世代間の混合角はクォークのそれに比較して大きく、未知の対称性が背後にあると思われている。一方でニュートリノの粒子・反粒子の対称性(CP)の破れが、現在の宇宙が物質優勢の原因解明の手がかりになると考えられており、ニュートリノの質量や混合の全容解明が重要な課題となっている。

T2K(Tokai-to-Kamioka)ニュートリノ振動実験は、未解明のニュートリノ混合角の世界初の測定を目指した実験である。本講演ではスーパーカミオカンデにおけるニュートリノ研究結果や最新のT2K実験結果も含めて、ニュートリノ研究の現状と将来を俯瞰する。

セッション宇宙線>招待講演一覧
超高エネルギー宇宙線観測の現状 ーTelescope Array 実験の最新結果と共にー
分科会: 宇宙線 8月3日9:00-10:00講師: 多米田 裕一郎 (東京大学宇宙線研究所)
宇宙線は、V.F.Hessによる1912年の発見以来10^9から10^20eVと広いエネルギーに渡って観測されてきました。しかし荷電粒子である宇宙線は、銀河磁場等により軌跡を曲げられていまうため、起源天体の同定が非常に困難であり、加速機構や伝播機構等未だ解明されていないことは多い。ところが、10^19eVを超えるような超高エネルギー宇宙線では、銀河磁場中であっても直進するため、起源天体の同定が期待されている。超高エネルギー宇宙線は、これまでAGASAやHiRes等により観測されてきたが、エネルギースペクトルの不一致などもあり、より高統計、高精度での観測が必要とされてきた。現在南半球ではAuger実験、そして北半球ではTelescope Array実験により観測が行われている。本講演では、これまでの超高エネルギー宇宙線の観測の現状を、Telescope Array実験の最新の観測結果と共に紹介します。

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数値シミュレーションで迫る高密度爆発天体のエンジン
分科会: コンパクトオブジェクト 8月2日11:30-12:30講師: 固武 慶 (国立天文台)
超新星・ガンマ線バーストを始めとする高密度爆発天体現象の中心駆動源を理解することは、高エネルギー宇宙物理分野における一つのグランドチャレンジである。超新星に限った話でも、過去40年以上に渡る精力的なシミュレーション研究にも関わらず、その爆発メカニズムは未だに完全には理解されていない。近年の超新星シミュレーションの中には、これまでこの分野の積年の夢だった“爆発”が本当に起こることを示すものもある。ただ、シミュレーションで得られた爆発エネルギーは観測値よりも格段に小さい。何かまだ超新星のエンジンで働いている物理を、我々が見過ごしているのかもしれない。ガンマ線バーストを起こす超新星はどんな性質を持っているのだろうか?超新星よりひと桁爆発エネルギーを大きくする物理はなんだろうか?ブラックホールの回転エネルギーか、磁場か、ニュートリノか?。超新星・ガンマ線バーストの分岐を作っている物理を明らかにすることなく、恒星進化論に統一的な描像を与えることは不可能である。言うまでもなくこれらの研究に欠かせないのが、数値シミュレーション(一般相対論的多次元ニュートリノ輻射輸送計算)である。私のトークでは、計算の進展とともにこれまでこの分野がどのようにして発展してきたか、何がボトルネックか、そしてこれから我々が取り組むべき問題は何か、みなさんと議論していきたい。

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Ia型超新星研究の現状、将来に残された宿題
分科会: コンパクトオブジェクト 8月2日16:15-17:15講師: 前田 啓一 (東京大学IPMU)
Ia型超新星は白色矮星の核暴走爆発であると考えられている。光度の時間進化の遅いものほど絶対光度が大きいという経験則を用いることにより標準光源として用いることができ、宇宙論における有力な観測対象である。爆発の際には大量の鉄が生成されるなど宇宙の元素の起源としても重要である。Ia型超新星にはいくつかの鍵となる問題が提起されている。(1)爆発に至る進化の過程は?(2)どのように爆発が引き起こされ、どのように核反応が進行するか?(3)宇宙論で用いられる経験則はどのような物理過程を起源とするか?(4)逆に、経験則を超えた多様性はどの程度存在するか、またそれらの起源は?(5)今後の宇宙論的研究への更なる応用の道は?これらの問いに答えるべく、遠方超新星のサーベイ、近傍超新星の多波長観測、爆発・核反応・輻射輸送の理論計算などが世界中で活発に行われている。これらは上記の問いに部分的な解答を与えるとともに、逆に新たな問題も提起しつつある。本講演では、これら理論・観測双方からのアプローチを紹介し、Ia型超新星についてどこまでわかっているか、何が分かりつつあるか、何が分からないかを概観する。

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X線で探るコンパクト天体:「すざく」からASTRO-Hへ
分科会: コンパクト 8月3日18:30-19:30講師: 牧島 一夫 (東京大学)
「すざく」は~0.5 keV から~300 keV までの広いX線帯域を、高い感度と良いエネルギー分解能でカバーし、コンパクト天体に対して数々の新しい成果を導きつつある。

強磁場激変星では、降着物質が磁極で生成する高温プラズマの光学的に薄い放射を診断し、白色わい星の質量半径比を精度よく決定することができた。同じ質量降着する強磁場コンパクト天体でも、中性子星となると降着円筒は光学的に厚くなる。磁場がB~1e12 G の場合は電子サイクロトロン共鳴による吸収線がスペクトル中に見られ、「すざく」により新たに数個の中性子星の磁場が決定された。

特筆すべきは、1e(14-15) G の磁場をもつとされるマグネター天体である。「すざく」により、それらが黒体放射的な軟X線成分と、異常に硬い硬X線成分とからなる特異な2成分スペクトルを示し、しかも両者の比が年齢とともに進化する様子が明らかになった。硬X線成分の起源は謎である。

弱磁場の中性子星連星の場合、質量降着率が高いと降着流は、光学的に厚い降着円盤を形成し、そこからの多温度黒体放射と、中性子星の表面からの黒体放射の和が観測される。「すざく」は新たに、降着率が下がって円盤が光学的に薄く幾何学的に厚い「コロナ」になった状態を診断し、その形状や電子温度を推定することができた。ブラックホール連星では、同様な状態が広く観測されており、「すざく」によりコロナがひじょうに非一様であること、光学的に厚い円盤がその中に部分的に侵入することなどが明らかになった。同様の描像をAGNに適用することで、これまで手つかずだった、「AGNセントラルエンジンの構造」にもメスが入りつつある。

これらの成果はいずれも、「すざく」の性能を大幅にパワーアップした後継機 ASTRO-H (2014年に打ち上げ予定)に継承され、強力に展開される予定である。その見通しも紹介したい。

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N体シミュレーションで何ができるか?(と海外でポスドク生活2年目)
分科会: 銀河・銀河団 8月1日17:30-18:30講師: 藤井 通子 (鹿児島大学)
N体シミュレーションは粒子間の重力を計算し各粒子の軌道の時間発展を計算していく非常にシンプルなシミュレーションである。その適用範囲は広 く、惑星、星団、ブラックホール、銀河、宇宙の大規模構造と様々なスケールで用いられており、それぞれに合わせた計算方法が開発されてきた。近年 では計算機の発達に伴い、例えばGraphics Processing Unit (GPU) などの利用によって、以前と比べると誰でもお手軽にシミュレーションが行えるようになったと言える。また、スーパーコンピュータを用いた大規模な(=粒子 数の多い)シミュレーションが次々と行われるようになった。しかし、粒子数が増えて分解能が上がると、より高密度な領域まで分解できるようにな り、その結果、計算に必要なコストは増加する。そのため、より高分解能の大規模なシミュレーションを行うには、単にたくさんのコンピュータを用意 すれば良いのではなく、それらを効率的に使うための新しいアルゴリズム開発が必要となってくる。また、GRAPEやGPUなどのアクセラレータの 利用もN体シミュレーションを行う上での重要な課題である。本講演では、近年のN体シミュレーションが何を乗り越えて来て、これから何を乗り越え なければならないか、具体的なシミュレーションの例と共に紹介する。また、海外(オランダ)での1年間のポスドク生活についても紹介する。

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多波長観測で探る銀河団高温プラズマ、高エネルギー粒子、暗黒物質
分科会: 銀河・銀河団 8月2日17:30-18:30講師: 滝沢 元和 (山形大学)
銀河団は宇宙で最大規模の自己重力系で、現在も周囲の物質を降着したり、小銀河群を吸収しながら成長している。その姿は様々な波長の観測によって明らかにされつつある。今回の講演では、どのような観測手段で銀河団のどのような側面が明らかになるのかを紹介し、明らかになってきた銀河団の動的な側面、および構造形成を通じた宇宙論との関係について議論したい。

銀河団でのバリオンの大部分は温度が1-10keV程度の高温プラズマとして存在している。これはX線で観測され、ガスの物理状態や化学組成についての情報を与えてくれる。さらに最近では高温ガスがCMB光子を逆コンプトン散乱するスニヤエフ・ゼルドヴィッチ効果の観測も可能になりX線とは相補的な情報を与えてくれると期待される。

その一方で、GeV程度の高エネルギー電子やマイクロガウス程度の磁場のような非熱的な成分の存在が主に電波観測によって明らかになっており、将来的には硬X線やガンマ線観測によってさらに高エネルギーな粒子の世界を見ることができるかもしれない。このような粒子加速現象は高温プラズマの運動と密接に関連があると考えられているが不明な点も多い。

銀河団の質量の大部分を担う暗黒物質は、高温ガスや銀河の運動から間接的に存在をうかがいしるだけであったが、重力レンズ効果の観測により直接情報を得られるようになってきている。その結果、高温ガスと暗黒物質の分布の違いも見つかってきており、系の力学状態や暗黒物質の性質について重要な情報を与えてくれる。

銀河団のような大規模な構造の形成過程は宇宙論に依存する。したがって、銀河団の様々な統計的性質をつかって宇宙論の情報を得ることが原理的には可能である。そのような試みの結果と、銀河団自体の理解が不十分なために起こりうる問題点についても紹介したい。

セッション銀河・銀河団>招待講演一覧
もし高校野球の女子マネージャーがHSCやTMTで宇宙を覗いたら
分科会: 銀河・銀河団 8月3日14:45-15:45講師: 柏川 伸成 (国立天文台)
あの華やかで騒々しかった祭りもそろそろ終焉に差し掛かっている。90年代に始まったHST, Keck, そしてすばるなどの最先端技術を兼ね備えた望遠鏡たちの賑やかな競演によって、遠方宇宙のフロンティアはさらに拡大されていった。銀河進化の黎明期の様子は次々と明らかになり、われわれは観測結果を基に初期宇宙への想像を甘受する暇さえ与えられなかった。もちろん祭りはまだ続いている。今でもastro- phを読むと、胸の奥がキュンと痛くなるような論文に出会うことがないわけではない。でも、夏の終わりに、セミたちの鳴き声が懐かしく耳に残っているように、突然の夕立にどこまでも青かった海を思い出したりするように、1つの季節の終わりを感じているのは何も私だけではないであろう。論文の最後の DiscussionにJWSTやELTの名前を目にすることが最近多いのは偶然だとは思えない。これは、われわれの単純な好奇心、例えば、宇宙で最初の星はどうやってできたんだろう、再電離はどのように進んだんだろう、といった根本的な疑問が、今の時代には解決されないことを知ってしまったから、なのかも知れない。あの頃のときめきを忘れないうちに、いや、あの頃のときめきをもう一度感じたくて、われわれは次のチャレンジに向かおうとしている。

かくいうわれわれの世代も、すばるができるまではこのような時代の訪れを、ある種の予感でしか感じていなかった。チャレンジして初めてわかった真理が多かったのだ。宇宙はわれわれの想像や予感を超えて素晴らしく、面白く、そして美しい。来るべき次の祭りに備えて今から充分に予感を膨らませていただきたい。そして数年後には、その予感がゆっくりとしかし着実に、いい意味で裏切られ、みなさんのときめきが最高潮に達することを願っている。

セッション太陽・恒星>招待講演一覧
変光星・突発天体現象概論
分科会: 太陽・恒星 8月2日14:45-15:45講師: 植村 誠 (広島大学)
「明るさが変わる天体」は古くは紀元前からその存在が知られていた。それらはやがて変光星と呼ばれ、天体ごとに異なる特徴を示すことが知られるようになると、それぞれ超新星、新星、脈動星などと分類された。研究が進んだ現在ではその種類は小分類まで含めると200を越える。それぞれの変光星は自身の変動機構の研究の他にも、天体までの距離測定や天体の構造・進化の手掛かりを与えるものとして、宇宙物理学の様々な分野と関わっている。また、X線やγ線の放射源は多くが変光天体である。そのような天体の研究には多波長での同時観測が必須となるが、それぞれの波長帯で放射源が異なる場合も多く、それらの基本的な物理描像を理解しておくことが重要である。最近では自動化された全天監視装置が可視光やX線・γ線観測で発達してきた。それらの装置がなにかしらの変動を発見した後には適切な追跡観測を行う必要があるが、その際には変光星や突発天体現象の幅広い知識が求められる。そこで、本講義ではこれら多様な変光星の現象と理論を概説する。多数ある変光星の中でも今回は特に、国内での研究シーンで取り上げられることの多い天体に焦点をあてる。講演の具体的な目標は「国内の研究会等で変光星に関わる発表を聞いた時、少なくともその天体の概略は知っている状態にする」ことである。講演で取り上げる天体としては、激変星、超新星、脈動星、X線連星、γ線バースト、ブレーザー、及びいくつかの爆発型変光星を予定している。

セッション太陽・恒星>招待講演一覧
次世代太陽観測衛星の成功に向けて、若手の方々に希望・期待すること
分科会: 太陽・恒星 8月3日16:15-17:15講師: 久保 雅仁 (国立天文台)
現在太陽を観測する衛星は6機あり、スペース太陽観測の黄金期と言えます。その中でも、2006年に日本が打ち上げた「ひので」衛星は、最も高い解像度での動画的な観測と物理量診断を行う分光観測を組み合わせたことで、多様でダイナミックな現象に満ちあふれた新たな太陽像をを明らかにしました。「ひのとり」、「ようこう」、「ひので」と大きな成果をあげてきた日本の太陽コミュニティは、次世代太陽観測衛星として、2018年度にSOLAR-C衛星を打ち上げ、その後SOLAR-D衛星を実現することを提案する予定です。光球からコロナまでの磁気天体プラズマの加熱・加速、多様でダイナミックな現象を生み出す物理過程を理解するために、SOLAR-C衛星では、「ひので」の物理量診断機能を大幅に強化し、高空間分解能・高スループットで光球からコロナまで隙間のない分光観測を実現します。また、SOLAR-D衛星では、太陽大気活動の源ある磁場の生成過程(太陽ダイナモ)の理解を目指し、人類未踏の太陽極域探査に挑戦します。

本講演では、次世代太陽観測衛星SOLAR-C、SOLAR-Dの概要を紹介し、その実現に向けて若手の方々に希望・期待することや新しい観測機によって盛んになりそうな研究等を話す予定です。

セッション星間現象>招待講演一覧
Observational Searches for PopIII Stars in High-z Galaxies
分科会: 星間現象 8月2日9:00-10:00講師: 長尾 透 (京都大学)
宇宙初期に存在したとされるゼロ金属量星(Population III Stars;PopIII)の性質に関して、これまで盛んに理論的な研究が進められてきている。しかしこれまでPopIIIが観測的に発見されたという例は全くない。こうした状況を受け、本講演では高赤方偏移宇宙に存在するかもしれない "PopIII-hosting galaxies" をどうすれば観測できるか、その戦略と講演者の試みについて紹介したい。

講演の冒頭にて、高赤方偏移宇宙の銀河探査の現状について簡単にレビューし、我々がどの程度の高赤方偏移銀河まで観測可能になっているかについて概観する。次に、これらの高赤方偏移銀河がPopIIIを含んでいるかどうかを観測的に識別するために必要な、理論的に予想されているPopIII- hosting galaxiesの観測的特徴について、特にHII regionsにおける電離ガスの観点から紹介する。以上を踏まえ、分光的にPopIII-hosting galaxiesを同定しようとするいくつかのこれまでの試みと、上限値の情報からどの程度の議論が可能になるかについて紹介する。また、今後数年間で当該分野に予想される観測的研究の進展についても示したい。

セッション星間現象>招待講演一覧
星形成の理論研究:最近の進展とこれからの課題
分科会: 星間現象 8月3日13:30-14:30講師: 町田 正博 (九州大学)
星は、宇宙の最も基本的な構成要素であり、その形成については、遥か昔から調べられてきました。現在でも星の形成過程は盛んに研究されており、天文学の重要な一分野として認識されています。

星形成の研究とは、低温、低密度の薄く広がったガスが重力収縮して高温、高密度のコンパクトな星になるまでの過程を調べることです。この過程は、一見、単純なように思えますが、実際には様々な物理現象と結びついており、単純に重力収縮だけでは星を作ることは出来ません。例えば、星形成領域ではアウトフローやジェットというガスの放出現象が数多く観測されていますが、これらの現象が起こることによって逆に星は質量を獲得して成長すると考えられています。また、原始星の多くは連星であることが分かっていますが、これは、星が出来る前に、ガス雲が分裂してガスのさらなる収縮を促すためです。

近年、大型望遠鏡による観測や大規模な数値シミュレーションによって、これら星形成過程に付随した現象について急速に多くのことが理解されてきました。例えば、上で述べた、ジェット、アウトフローの駆動機構やガスの分裂と連星が誕生する条件などは解明されつつあります。しかし、まだ、星形成過程には、解くべき多くの課題が残されています。また、今後、ALMAなどの観測により、星形成の研究分野はさらなる発展が予想されます。この講演では、星形成理論の基礎から最近の発展について概観し、その後、これから挑戦すべき課題について講演します。

セッション星間現象>招待講演一覧
巨大分子雲〜星、星団のゆりかご〜最近の近傍銀河の観測結果から
分科会: 星間現象 8月4日11:45-12:45講師: 河村 晶子 (国立天文台ALMA推進室所属)
星についての観測的研究は、天文学の中でも最も長い歴史を持っています。星は、星間物質の中でも低温高密度領域である分子雲内で形成されます。多様な環境下にある、さまざまな星形成活動を伴う分子雲の性質を調べることは、星形成の条件や星形成過程について理解を深めるうえで必要不可欠です。近年、マゼラン雲、M33、といった私達の銀河系に最も近い近傍銀河で、巨大分子雲の高感度観測が広く行われています。その結果、銀河系内分子雲の観測結果と合わせ、分子雲内での密度分布、温度分布の様子、そしてそれらと星形成の活発さとの関係、といったことが明らかになってきました。また、星形成の活発さを分子雲の進化段階の指標とすることで、分子雲の進化過程や寿命についても議論がなされ てきています。講演では、マゼラン雲における最近のミリ波サブミリ波による分子雲の観測結果と、赤外線等によって得られる天体、分子雲をとりまく低密度な原子雲との比較から導かれた分子雲の形成、進化、そして星形成を中心に紹介します。そして、銀河系の所属する局所銀河群銀河について、分子雲の性質で明らかになってきたことをまとめます。

また、今年は、南米チリの標高5千メートルに設置されたアタカマ大型干渉計が本格運用を開始しました。同望遠鏡は、ミリ波サブミリ波帯で、今までにない高感度、高分解能観測を可能にします。星間物質や星形成領域についても新たな知見が得られると期待されます。講演では、ALMAの現状についても紹介します。

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ハビタブルプラネットの形成と進化
分科会: 惑星系 8月2日10:15-11:15講師: 玄田 英典 (東京大学)
生命が誕生し進化することが可能である惑星のことをハビタブルプラネットと呼ぶ。まずは、その条件についてみんなで検討する。もちろんすべての条件がわかっているわけではないが、少なくとも地球型の生命にとっては惑星表面に液体の水が長期間存在することが必要であったと考えられている。そこで、我々が一番よくわかっているハビタブルプラネット「地球」に注目し、地球の水(海)の起源について、これまでにわかっていること・わかっていないことをまとめる。

地球への水の供給と太陽系の形成プロセスは密接に関連しているので、水の供給という観点に注目して、太陽系惑星の形成について概観する。この検討でわかることは、実は、現在の地球の水の量には強い必然性はなく、むしろ、地球型惑星が形成した時には、さまざまな水量をもった惑星が形成されるということである。

惑星に水が供給されたとして、その水が液体として惑星表面に長期間安定して存在できるかどうかは、第0近似的には恒星からの距離できまる。そのような恒星から距離の範囲のことをハビタブルゾーンと呼ぶ。そこで、ハビタブルゾーンの研究でもっとも有名なKasting et al. (1993)をレビューし、ハビタブルゾーンがどのようにして決まっているのかについて学ぶ。

Kastingは、地球という惑星を想定してハビタブルゾーンを検討したが、上記で述べたように、惑星の水量には強い必然性はない。そこで、さまざまな水量をもつと考えられる系外地球型惑星について、ハビタブルゾーンの検討を拡張する。この検討をもとに、地球という惑星が、生命誕生と進化にとってもっとも適していた惑星だったのかどうかについての示唆を与えることができれば幸いと思っている。

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惑星科学の異文化コミュニケーション
分科会: 惑星系 8月3日17:15-18:15講師: 中串 孝志 (和歌山大学)
私は京大宇宙物理学教室出身にも関わらず、(非astro的)惑星大気科学者である。にも関わらず、現在、和歌山大学観光学部‥‥観光学は経営学の一分野である‥‥に勤務している。今ここまで道のりを省みると、惑星科学の状況とその変遷、惑星科学と社会の関係が見えるようにも思われる。

一口に「惑星科学」と言ってもいろいろある。それは惑星科学の対象がむしろバラバラだという意味である。この状況は、関連諸学会の状況に表れている。私が研究を始めた当時は、惑星人は各学会内で異端視されひっそりと生きていた。しかしその後、現在に至るまでの十数年間で状況は一変した。絶滅危惧種だった「現存する太陽系惑星」のマイノリティ達が学会の枠を越えて結びつき始め、今ではそれなりの勢力を誇るようになった。学会間の異文化コミュニケーションがなされたのだ。

では「現存する太陽系惑星」の科学の現状は?…その業界事情はJAXA/ISASによる惑星探査計画から伺い知ることができるかもしれない。そこで私が関わった/関わっている3つのミッションを紹介する。かつて「TOPS」と呼ばれた惑星観測用宇宙望遠鏡、金星探査機「あかつき」、そして現在検討中の次期火星探査機MELOS計画である。他にも多くの計画がある。それらの状況を知っておくことは、astro的惑星科学の皆さんにも必要なことであろう。

ところで観光学部の中の惑星科学者は何をしているのだろうか。惑星科学者が観光学に寄与できるテーマは何か?と4年目にして見つけた世を忍ぶ仮のテーマが「ジオパーク」であった。社会にとっては宇宙も惑星も地球も大差ないのである。正直な話、人文・社会系の人々との職場は異文化コミュニケーションの連続である。科学コミュニケーションの本質がここにあるとさえ思われるほどである。そんな職場の紹介も、若手科学者が生き残る知恵の一部になれば幸いである。

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原始惑星系円盤の観測
分科会: 惑星系 8月4日10:30-11:30講師: 深川 美里(大阪大学)
惑星がどのようにして誕生するのかを知りたい。この研究動機を、もう何回、あちこちの書類に書いただろう。もう少し正直になると、最初の興味は系外惑星ではなく星形成であり、星がどのように誕生し、若い星の周りで何が起こっているのかを実際に確かめたい、ということだった。この「実際に」が重要で、本当はその天体の間近に行って確かめたいところだが、そうはいかないので地球から観測している。観測結果というのは、多くの場合、あらかじめ予想していた範囲を超える。例えば私は原始惑星系円盤の撮像を主にやってきたわけだが、エネルギー分布だけからは想像もできないような姿が明らかになったりして、これぞイメージング、という結果も多い。ただし、研究者にとって悩ましいのは、予想の範囲の超え方に、法則性を見出すのが難しいという点だ。もちろん、現実の姿をとらえるのはまず大事である。だが、どのような物理過程が働いているのか、それにより円盤はどう進化するのか、惑星系と円盤はどう関係するのか等々の湧いてくる疑問を解決していくには、観測量の相関または非相関の情報が有効なのである。最近は、観測の解像度が上がり、徐々に天体を間近で見るような効果が得られつつあるが、自然は理論モデルほどシンプルでないらしく、法則性とは逆の多様性が目立ってきている。これらは何を意味するのだろうか。講演では、円盤と惑星との関係性を気にしながら、最新の観測結果を概観する。

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THz電波天文観測を切り開く超伝導検出素子
分科会: 観測機器 8月1日16:30-17:30講師: 前澤 裕之 (大阪府立大学)
0.1〜1 THz帯の電波天文学は、超伝導体/絶縁層/超伝導体(SIS)構造をもつ超伝導ミクサ検出素子により飛躍的な発展をとげてきた。その感度は量子雑音に迫る。これを用いたヘテロダイン分光はΔf/f=10-6〜-7の周波数分解能を有し、星間ガスのダイナミクスの情報も得ることができる。しかし、さらに高いTHz周波数域は、電波と遠赤外線の技術の挟間にあるため、ヘテロダインセンシングによる天文学観測が未開拓となっている。宇宙のプラズマ領域の冷却を担う炭素イオン、窒素イオン、酸素イオンといった基本的なイオン種や、OHラジカルやH2D+といった基本分子のスペクトル線がこのTHz帯にひしめいている。これらの観測の実現・開拓は、分子雲や高密度コア、原始惑星系・惑星大気の進化・形成過程についてさらに理解を深めるための重要な鍵を握っている。

従来のニオブ型のSIS素子は、THz領域の電磁波を吸収すると、クーパー対が破壊されて超伝導量子デバイスとしての機能を失ってしまう。こうした中、次世代のTHz帯ヘテロダイン検出素子として着目され、我々が開発を推進しているのが超伝導ホットエレクトロン・ボロメータミクサ(HEBM)である。動作周波数に上限が無く、また強度の弱い局部発振波でもHEBMのヘテロダイン駆動が可能である、といった特徴をもつ。近年は、中間周波信号についても実用的な数GHz帯の帯域が得られるようになってきた。我々は素子の心臓部である超伝導細線に、拡散と格子冷却の機能を併せ持つNbTiN超薄膜を採用している。この細線の3次元構造の形成には、独自の電子ビーム描画装置や複合製膜技術などを踏襲している。

本講演では、ヘテロダイン検出素子製作に関わる先端テクノロジーを中心に、一連の研究・開発について解説する。また、近年進展の目覚ましい量子カスケードレーザのヘテロダイン分光への応用についても紹介する。

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Hyper Suprime-Cam
分科会: 観測機器 8月4日9:15-10:15講師: 宮崎 聡 (国立天文台)
すばる望遠鏡の特徴はその高い光学・機械性能にある。およそ一秒周期でガイド信号を入れれば、すばるは0.1秒角(FWHM)の精度で天体を追尾し続ける。また、主鏡の形状と仰角の関係を一度測定しておくと、その関係式は長期間にわたり使用できる。リアルタイムに主鏡形状を計測しなければならない望遠鏡に比べ、格段に安定性・再現性が高いことを意味する。これによりすばるでは深く広くシャープな撮像観測が可能になった。我々のグループは10年前にすばる主焦点に搭載する撮像装置Suprime-Camを製作し、現在その後継機種であるHyperSuprime-Cam(HSC)を開発中である。本公演ではこれらカメラの紹介と、高解像度・高感度を実現する技術について解説する。