2012年度 第42回天文・天体物理若手 夏の学校

2012年8月1日(水)〜8月4日(土) @福井県東尋坊温泉三国観光ホテル
主催:天文・天体物理若手の会
後援:日本天文学会


招待講演一覧


フェルミガンマ線宇宙望遠鏡で見えてきた宇宙高エネルギー現象
分科会: コンパクトオブジェクト  8月1日 13:30-14:30 講師: 深沢 泰司 (広島大学)
 フェルミガンマ線宇宙望遠鏡(フェルミ衛星)は、20MeV-300GeVの宇宙ガンマ線を観測する観測衛星であり、その主検出部であるシリコンセンサーは日本の広島大学と浜松ホトニクスが中心に開発したものである。GeVガンマ線観測衛星は、現状では主にフェルミ衛星のみであり、1990年代に活躍したコンプトン衛星EGRET検出器以来の本格的観測となる。2008年NASAにより打ち上げられ、以降、順調に観測を続けており、既に2000個前後のGeVガンマ線天体を検出している(フェルミ衛星2年カタログとして公開されている)。100個以上のガンマ線パルサー(新種のパルサーも含む)、パルサー星雲、超新星残骸、ガンマ線連星、新星などの系内天体、多数のブレーザー、電波銀河、狭輝線クエーサー、スターバースト銀河、近傍銀河などの系外天体が検出されている。従来のGeVガンマ線観測では主にパルサー7個とブレーザー約200個が見えていたのと比較すると、新種のGeVガンマ線天体が多く、フェルミ衛星による観測の発展がわかる。さらに、フェルミバブル、ガンマ線背景放射や暗黒物質からの放射の強い制限、電波ローブ、太陽フレア、宇宙線の直接間接測定などでも大きな成果をあげている。本講演では、GeVガンマ線観測の検出方法、放射機構などの基礎とともに、フェルミ衛星で見えてきた宇宙高エネルギー現象について他波長での観測との関係も交えながら紹介する。

全天X線監視装置 MAXI によるブラックホール探査
分科会: コンパクトオブジェクト  8月2日 11:30-12:30 講師: 根來 均 (日本大学)
 国際宇宙ステーションの日本実験棟「きぼう」に 2009 年に取り付けられた全天X線監視装置MAXI は、同年8月の運用開始以来、これまでに 4 (or 5) つのブラックホール候補天体の発見をはじめ、様々な天体の諸活動を捉え、世界に速報してきた。
 また、すでに3年近くなるこれまでにない精度の高いモニター観測からも、ブラックホール候補天体や中性子星にみられる様々な「状態」に関する新たな知見も得られつつある。
 本講演では、MAXI による全天X線観測の最新の成果を紹介するとともに、X線以外の「他」波長観測の意義を踏まえ、近年のブラックホール研究について解説する。
 具体的には、次のような内容の予定である。
1) ブラックホール候補天体の特徴と探査
2) MAXI が見つけたブラックホール候補天体
3) 観測される様々な「状態」と降着円盤
4) 各状態が示すブラックホール(存在)の証拠!?(老人の仕事)
5) 各状態と状態遷移での未解決問題(若者の仕事)

超高エネルギーガンマ線天文学とCTA
分科会: 宇宙素粒子  8月2日 16:00-17:00 講師: 手嶋 政廣 (東京大学)
 超高エネルギーガンマ線による極限宇宙の研究は、MAGIC, HESS, VERITASにより150を超える多種多様なガンマ線源が銀河系内外に観測され、過去10年間に急速に発展してきた新たな天文学の一分野である。
 現在、パルサー、ガンマ線連星、超新星残骸、活動銀河核、スターバースト銀河等が観測され、天体での高エネルギー現象、宇宙線加速、ガンマ線放射機構が次々と明らかになってきている。さらにこの分野を発展させるため、国際共同により、次世代の超高エネルギーガンマ線天文台CTA 建設にむけて準備研究をすすめている。CTA は20GeV-100TeVの広いエネルギー領域のガンマ線を観測するため、数10台からなる 大口径(23m)、中口径(12m)、小口径(6m) のチェレンコフ望遠鏡群をおよそ10km^2 の広大な領域に展開する。感度は現在稼働中の望遠鏡の10倍以上の感度 10^(-14)erg/cm^2s (1m Crab) を達成し、銀河内のほぼ主要なガンマ線源(パルサー星雲、超新星残骸等)をすべて観測する。また、角度分解能も現在稼働中のものより数倍向上し2分角(1TeV)となり、パルサー星雲、超新星残骸等の拡がった天体に関しては、X線観測等とあわせて多波長での詳細なモルホロジー研究が可能となる。またエネルギー閾値を10-20GeVまで下げる事により、ガンマ線観測の地平線を大きく拡げ、z<2 までの活動銀河核、z<6 までのガンマ線バーストを観測可能とする。 本講演では、超高エネルギーガンマ線天文学の現状をレビューし、CTA 準備研究の状況、CTA で期待されるサイエンスについて報告する。

加速器実験から見える宇宙?急がば回れ?
分科会: 宇宙素粒子  8月3日 18:30-19:30 講師: さこ 隆志 (名古屋大学)
 宇宙線観測は伝統的な天文観測と何が違うのか?天文学の観測は(大雑把に)「宇宙からの電磁波の到来時刻、方向、エネルギー(波長)を測定すること」である。電磁波と検出器の応答は正確に理解できること、電磁波は磁場中を直進することから、観測ができればすぐに放射天体の現象を議論できる。一方、宇宙線観測とは「宇宙からの荷電粒子の到来時刻、方向、エネルギー、粒子種を測定すること」である。荷電粒子であるため到来方向は発生源を向かない。粒子種という新しい自由度が増える。さらに、観測に使われる空気シャワー現象は電磁相互作用だけではなくハドロン相互作用を介して発達するため、地球大気という検出器内での応答の理解が難しい。これらの困難から宇宙線観測はいまだ「天文学」としての地位を確立しているとは言えない。しかし、新たな自由度があることは、未知の現象を探索できる可能性を示している。宇宙線の観測を確立することで天文学の対象範囲を大きくひろげることができる。
 困難項目の中で「ハドロン相互作用」は宇宙物理とは独立の要素であり、この不定性を抑えることで他の宇宙物理的要素の議論が可能になる。ハドロン相互作用は量子色力学(QCD)によるクオーク・グルーオンの反応だが、電弱相互作用(QED)のように第一原理から全ての反応を計算することができない。これらの反応を正しく理解するためには現象論的モデルと加速器実験による検証が不可欠である。人類は今、Large Hadron Colliderという最強のハドロン衝突型加速器を手に入れた。LHCは重心系での最大衝突エネルギー14TeVを実現する加速器である。重心系14TeVは、片方の陽子の静止系でみれば 10^17eVに相当し、超高エネルギー宇宙線観測の領域に踏み込むことができる。
 本講演では、講演者が推進する LHCf実験の背景と最新結果、将来の計画を中心に加速器実験と宇宙物理の接点について紹介、議論したい。LHCfはLHCの実験のひとつで、宇宙線空気シャワーの理解のために日本の研究者が中心となって推進している。また、できれば太陽高エネルギー粒子観測と加速器実験についても紹介したい。

重力波検出実験
分科会: 観測機器  8月2日 13:30-14:30 講師: 川村 静児 (東京大学)
 重力波の存在は、アインシュタインの一般相対性理論により予言されたが、未だ検出されていない。もし重力波が検出できれば、ブラックホールの衝突や宇宙誕生の瞬間などこれまで見ることのできなかった様々な天体現象を観測できるようになる。そして、宇宙論、天文学、物理学などを含めた広い意味での重力波天文学が創成され、電磁波や宇宙線による天文学と相補して、我々がより深く宇宙を理解することを可能にしてくれるのである。
 本講演では、重力波とその検出方法について簡単に述べた後、建設が始まった大型低温重力波望遠鏡KAGRAや将来計画であるスペース重力波アンテナDECIGOについて、そのサイエンスの目的と装置の概要について詳しく説明する。

Nano-JASMINE衛星の開発
分科会: 観測機器  8月4日 11:15-11:45 講師: 山田 良透 (京都大学)
 Nano-JASMINEは、宇宙機関ではなく大学の衛星として進められている位置天文観測衛星プロジェクトです。京大理学部・国立天文台の天文研究者と東大の工学部の工学研究者が、10年の歳月をかけて作り上げてきた、高精度観測衛星の設計・開発は、東大で行われたある研究会との出会いから始まりました。そして、現在この衛星のデータ解析はヨーロッパの研究者の協力で進められており、打ち上げロケットはウクライナ製、射場はブラジルという大掛かりな衛星でもあります。
衛星開発の秘話と、Nano-JASMINEから期待されるサイエンスについてお話しします。

小型人工衛星を利用した宇宙科学研究へのご招待
分科会: 観測機器  8月4日 11:45-12:15 講師: 酒匂 信匡 (信州大学)
 東京大学ISSLでは、世界に先駆け小さな人工衛星の設計開発を行ってきた。10cm立方・1kgの小さなサイズでも人工衛星として機能し、宇宙での実験が可能である示したXIシリーズを皮切りに、10kg弱の質量で地上分可能10mのリモートセンシングを行うPRISMの開発を経て、現在国立天文台・京都大学と共同で赤外線位置天文観測衛星Nano-JASMINE計画を進めている。
 これまで、日本における衛星開発といえばJAXAや経産省といった文字通り国の計画であったが、これに対して1研究室レベルの意思で宇宙にアクセスすることができる新しい世界が拓けた。そのため、世界の工学関係者が超小型衛星開発に食指を動かしているが、現時点では大半の参入者は正常に機能する人工衛星を開発できる水準にない。しかし、東大ISSLを始め、一部では従来の大型衛星を超える性能の小型衛星開発が可能であり、また有償の業務として開発を請け負うベンチャー会社もスピンアウトされている。
 今後は、工学側の技術ミッション以外にも、理学特に宇宙科学系のミッションにおける小型衛星の利用が期待される。そのため、聴衆各位にも自分の研究を軌道上で行うこと狙うことを希望する。その参考になるべく本講演では、小型衛星と大型衛星の技術的な相違や得意とするミッション内容、未だ模索中ではあるが小型衛星計画における、バス開発側とミッション側との望ましい関係・プロジェクトの進め方について述べる。

銀河と銀河団の生い立ち
分科会: 銀河・銀河団  8月2日 9:00-10:00 講師: 児玉 忠恭 (国立天文台)
 銀河形成は、宇宙年齢が20-40億年の時代(1.5 < z < 3)の間にピークを迎え、その後は活動が低下してきたことが判ってきた。また、今日の宇宙において、銀河の形態や星形成の活動性は、銀河の周辺環境に大きく依存していることが知られている。つまり銀河の形成や進化は、周辺環境と密接に関係していることが判っている。また質量の大小によっても銀河の性質が大きく異なることが明らかになっている。ところが、これらの基本的な銀河の性質を決定する主要因が何なのか、背景にある物理過程は何なのかは未だよく判っていないのが現状である。しかし、すばる望遠鏡をはじめとする地上大型望遠鏡や、ハッブル宇宙望遠鏡など、近代の観測技術の飛躍的な向上によって、我々は徐々にその起源について迫ろうとしている。
 この講義では、銀河と銀河団ができつつある時代に遡って、形成および進化の歴史を直接見ながら概説し、さらにALMAやTMTなどの次期装置によって新たにどのようなことが判ってくるかを展望する。

NGC48 1stカタログ選抜総選挙?講演者が選ぶ16議席?
分科会: 銀河・銀河団  8月4日 9:00-10:00 講師: 田中 幹人 (東北大学)
 篠田麻里子の名スピーチが記憶にも新しいAKB48 27thシングル選抜総選挙ですが,今,AKBを1つの銀河,そのメンバーを星だと思い込み見ましょう.そうですね,AKBやSKEがアンドロメダ銀河や銀河系で,大島優子や松井玲奈が銀河を構成する星です.裏で支配する秋元康が暗黒物質と言ったところでしょうか.ではここで,もしあなたが結成当時のAKBの様子が知りたいときどうしますか?9期生の横山由依にインタビューするより,1期生の前田敦子にインタビューしますよね?それと同じで,銀河形成の歴史を探るには,若い生まれたての天体を調べるより,古い天体を調べる方が効果的です.古い天体というのは,矮小銀河や球状星団であったり,単に古い星であったりします.このように銀河内または周辺に散在する宇宙の化石を手掛かりに,銀河の歴史を調べる学問を銀河考古学と呼んだりします.特に,すばる望遠鏡などの可視赤外線望遠鏡は,観測的に銀河考古学を研究するのに最適なツールですので,講演者もよく利用しています.今回は,その銀河考古学について,大学院で初めて天文学を学ぶ人にでもなるべく分かるようにAKBを例にして概説し,16人?銀?の銀河考古学的に興味深い選抜ギンガーを発表したいと思います.
あ,ちなみに,講演者の推し銀はアンドロメダ銀河ですが,推しメンは百田夏菜子です.

見えてきた宇宙大構造の進化
分科会: 重力論・宇宙論  8月2日10:30-11:30 講師: 日影 千秋 (名古屋大学)
 宇宙の加速膨張の起源の解明を目指して、世界中で大規模な宇宙大構造の観測プロジェクトが進行している。暗黒エネルギーの正体は何か?一般相対論は大規模スケールで破れているのか?一般相対論を修正したさまざまな重力理論モデルが提唱されるとともに、1パーセントレベルの高精度理論テンプレートの構築が進められている。今年、BOSSとWiggleZチームは、z~1までの宇宙の膨張率・構造成長率を測定した結果を発表し、暗黒エネルギーの性質の精密測定・一般相対論の検証を行った。今後も、すばる望遠鏡を用いたSumire プロジェクトやESAによるEuclid衛星の打ち上げが検討されており、銀河赤方偏移サーベイと重力レンズサーベイを組み合わせた新たな宇宙論研究が展開される。宇宙の加速膨張だけでなく、ニュートリノの絶対質量や宇宙初期の物理も詳しく探ることができるかもしれない。本講演では、これまで宇宙大構造観測から分かったこと、将来の展望について紹介する。

ブラックホール宇宙
分科会: 重力論・宇宙論  8月3日11:30-12:30 講師: 中尾 憲一 (大阪市立大学)
 我々の宇宙には大量のダークマターが存在することが、観測および理論的研究から強く示唆されている。ダークマターの候補は、アキシオンや超対称素粒子モデルが予言するほとんど電磁相互作用をしない素粒子的なものだけでなく、宇宙初期に形成された小質量ブラックホールの多体系のような天体起源の可能性も指摘されている。どちらの候補も速度分散が小さく、塵状物質の状態方程式で記述される連続体近似が良いと考えられているのだが、後者のブラックホールは、それ自身が自己重力の極めて大きな宇宙の非一様性であり、それらがほぼ等間隔に分布している宇宙が、塵状物質に満たされた一様等方宇宙と大域的に同じ進化をするかどうかは、実は極めて非自明な問題である。この講演では、ブラックホールに満たされた宇宙モデルに関する過去の研究と最近の研究成果を紹介する。

インフレーション宇宙論
分科会: 重力論・宇宙論  8月4日10:00-11:00 講師: 横山 順一 (東京大学)
 インフレーション宇宙論について基礎的なお話を致します                    
参考文献 宇宙論I 宇宙のはじまりの第6章
必ず第二版を用いてください。第一版の内容は保証しません

星間現象と電波天文と銀中(銀河系中心)
分科会: 星間現象  8月1日 14:30-15:30 講師: 岡 朋治 (慶応義塾大学)
 星間物理は文字通り「星と星」の間でおこる全ての現象を対象とする分野であり、そこに広がる希薄なガス・磁場・高エネルギー粒子が織りなす様々な物理現象をその起源・進化とともに理解しようとするものです。前世紀後半から続く星間物理学の進展は、電波天文学の発展と無縁ではありません。水素原子21cm線の発見に端を発する宇宙電波スペクトル線観測の進展によって、銀河系構造のみならずその中での星の形成や星間ガスの存在形態などが明確に把握されるようになってきました。特にミリ波帯に豊富に存在する分子スペクトル線の観測は、星間分子ガスの組成のみならず温度・密度などの物理状態を知る有力な手段となっています。電波観測の有用性は、まずその高い周波数分解能にあります。観測するスペクトル線の周波数シフトからガスの視線速度を精密に測定する事ができ、これによって生まれつつある星や銀河中心核周辺にあるガスの運動が描き出されています。また開口合成法により、極めて高い角度分解能を得ることも可能で、いよいよ本格運用の始まるALMAによってミリ波サブミリ波帯天文学の飛躍的発展が期待されています。
 さて、誰もが思いつくような退屈な前置きはそのくらいにして、そろそろ本題に入りましょうか。実は正直に告白しますと、私はここ10年ほど深い悩みを抱えています。私たちが住むこの銀河系の中心領域(業界では「銀中」と呼ばれる)に、妙なモノが沢山見えるのです。ええ、ここはどの波長で観測しても妙なモノが沢山見えます。VLAによる電波連続波のイメージはその最たるモノで、その景色はもう何がなんだか訳が分かりません。分子ガスが集中しているため、気取って「銀河系中心分子層(Central Molecular Zone)」とか呼んだりもしますが、そんな名前なんてどうでもいいんです。銀河系中心核 Sgr A*が数百年前は明るかったとか、来年7月に大爆発するとか言う話もありますが、私の悩みはもっと深いのです。私たちが見出した妙なモノは、分子スペクトル線観測で発見した空間的にコンパクトかつ速度幅が異常に広い一群の分子雲で、仕方なく「高速度コンパクト雲」と呼んでいます。困ったことに、ほとんど他波長の対応天体が見られません。これらは一体何なんでしょうか? 相談に乗って頂ければ幸いです。

赤外線天文衛星「あかり」が解き明かす星間固体物質の進化
分科会: 星間現象  8月2日 14:45-15:45 講師: 金田 英宏 (名古屋大学)
 宇宙から来る赤外線の多くは、宇宙空間に漂う固体微粒子(ダスト)からの熱放射によるものである。つまり、赤外線は、気相ではなく固相の星間物質を見ている。若い星が活発に生まれている場所や銀河では、強い紫外線によってダストが高温に温められるため、赤外線でとても明るく光る。これまでは、そのような赤外線で明るい領域が選択的に研究されてきたため、ほとんどの場合、ダストの赤外線放射は、単に星形成活動の指標、あるいは雲に隠された若い星を見つけるための手段として利用されるに過ぎなかった。つまり、星間ダストの赤外線強度や温度は議論されるが、その物理・化学特性が環境でどう変化するかを詳細に研究されることはほとんどなかった。我々が2006年に打ち上げた赤外線天文衛星「あかり」で感度が向上し、全天を観測したため、超新星残骸、銀河ハロー、銀河核近傍、星間ショック領域などのさまざまな環境でのダストの振る舞いが明らかになった。
 星間空間に漂う固体微粒子は大きく分けて2種類、シリケート系とカーボン系のものから成る。これらが進化して、前者は固体惑星の形成、前者は生命の誕生へとつながる。とりわけ「あかり」は、カーボン質ダストの赤外線特性を調べることを得意としており、全天で有機物質がどのように分布しているか、それらが様々な星間現象を経験してどう進化していくのかを解き明かした。最終目標は、「宇宙最初のダストから現在の惑星形成まで、固体物質進化の全ストーリーを解き明かす」ことである。残念ながら、現在の宇宙望遠鏡の感度をもってしても、遠方銀河のダストの「組成」を調べることは困難であり、また空間分解能が足りないため、惑星形成に至るまでの「物質進化」を調べることも困難である。そこで、我々が計画を進めているSPICA衛星が登場する。本講演では、「あかり」の全天観測やスペクトル観測で得られた最新の成果を紹介するとともに、それらがSPICAへどう繋がるのかを解説する。

脈動変光星の銀河系研究への応用
分科会: 太陽・恒星  8月1日 15:45-16:15 講師: 松永 典之 (東京大学)
 脈動変光星は、星全体が数時間から数百日のタイムスケールで膨張収縮あるいは細かい振動を行う。その現象は星の質量や半径、内部構造などに依存するので他の星よりも詳細な情報を得ることができる。このため、恒星の研究において、観測・理論の両面で重要な役割を果たしている。ケプラー衛星の活躍によって、非常に多くの星が細かい振動をしている様子がとらえられつつあるが、本講演では振幅の大きい「古典的な」脈動変光星について考える。その中でも、セファイド変光星やミラ型変光星と呼ばれる天体は、それらがもつ周期光度関係によって距離を測定できる重要な天体である。周期光度関係を利用することで、系外銀河までの距離を測定したり、銀河系内での星の分布を調べることが可能である。本講演では、脈動変光星とその応用についてのレビューを行った後、銀河系中心領域に発見した変光星によりわかってきたこと、および今後期待される研究について議論する。

大規模サーベイと突発天体の観測的研究
分科会: 太陽・恒星  8月1日 16:45-17:15 講師: 前原 裕之 (京都大学)
 新星爆発や矮新星の増光、巨大な恒星フレアなどといった突発天体は、その出現が予想できないことや、発生頻度自体が非常に低いことなどから、観測が困難である。しかし、撮像素子の大型化や計算機の性能向上に伴なって、近年行なわれるようになってきた大規模なサーベイ観測によって、極めて稀にしか起こらない天体現象が発見され、それらの詳細な観測や統計的な性質の研究が可能となってきた。例えば、Catalina Real-time Transient Surveyのような、広い範囲を深い極限等級でサーベイし、かつ即時に天体の増光を検出してネットワークを通じてその情報を速報するシステムの登場や、新天体の捜索に多大な貢献をしてきたアマチュアにもCCDによるサーベイが普及したことで、これまでほとんど発見されていなかった「変な」矮新星が見つかるようになってきた。また、超高精度で、非常に多くの星を連続して観測できるKepler衛星によって、従来わずか9例しか知られていなかった太陽型星の「スーパーフレア」が多数発見され、その統計的な研究が可能となった。
 本講演では突発的な増光を示す天体現象のうち、矮新星と最近話題となった太陽型星のスーパーフレアの2つについて取り上げ、研究の背景やサーベイ観測によって明らかになってきたこと、今後の研究の方向性などについて話す予定である。

動画と精密磁場観測から探る太陽のナゾ
分科会: 太陽・恒星  8月3日 10:00-10:30 講師: 岡本 丈典 (宇宙科学研究所)
 2006年の太陽観測衛星「ひので」打ち上げ以降、それまでの観測機器では分解できなかった現象やその構造が次々と明らかになっている。ひのでの美しい動画に代表される、時間変化する微細構造の観測は多くの科学成果をもたらし、太陽における電磁流体現象の理解を促進させた。未知の現象の発見例としては、プロミネンスやスピキュール上を伝播する波動、プロミネンス内部に見られる泡構造、黒点内部や周囲での微細なジェットなどが挙げられる。
 さらに、ひのではこのような動画的観測だけではなく、「世界最高精度の磁場測定」もウリである。大気を通して地上から時々刻々変化する構造の磁場を測定することは非常に困難で、宇宙望遠鏡だからこそ成せる業である。これにより、短寿命水平磁場の発見、螺旋磁束管浮上の発見、黒点崩壊の詳細、極域強磁場の発見、波動の光球面での性質など、特に重要な成果だけでもこの余白はそれを書くには狭すぎる。
 この講演で全ての成果を紹介することはできないため、私自身が関わったプロミネンスとスピキュールの研究内容を中心に、「どのような着眼点で」「どのような解析により」「何がわかったか」「そしてさらに何をするべきか」という論文調の内容に加えて、「良いデータがあるのになぜ解析に苦労するのか」についてお話ししたい。

太陽外層、太陽風加速領域におけるアルフェン波の伝播・散逸機構について
分科会: 太陽・恒星  8月3日 10:30-11:00 講師: 松本 琢磨 (名古屋大学)
 太陽最外層にはコロナと呼ばれる100万度を超える高温希薄な大気が存在し、その上空からは太陽風と呼ばれるプラズマが吹き出し、地球近傍で秒速800kmを超える高速流を形成している。加熱・加速のおおもとのエネルギー源は太陽表面の対流運動であり、その運動エネルギーが磁場を介して上空に伝わり、熱・運動エネルギーとして上空大気に受け渡される。これらの問題は、純粋なプラズマ物理という側面だけでなく、恒星からの質量放出率を求めるという面においても重要である。
 これらを踏まえて今回の講演では、磁気流体波動の一種であるアルフェン波を介したプラズマ加熱・加速の物理についてレビューする。アルフェン波は磁力線に沿って伝播する非圧縮性の横波であり、対流との相互作用などにより駆動されることで、コロナ加熱・太陽風加速に十分なエネルギーを上空に輸送できると考えられている。しかしながらアルフェン波のエネルギー散逸過程は複雑かつ多様であり、どの散逸過程が効率的に働くのかは未だに結論が出ていない。
議論が収束しない原因の一つが、重力と磁場が形成する太陽大気構造の複雑性にある。非一様大気中の波動の伝播・散逸過程は非線形効果を含むため、解析的に解くことは困難であり、数値計算によるアプローチが必要になる。これまでの研究においては、コロナ加熱と太陽風加速を別個に取り扱うことが多かったが、両問題は独立ではなく統一的に扱う必要があることが近年認識され始めてきた。本講演では、この統一的なアプローチに関しても触れる予定である。

系外惑星観測の現状と未来:直接観測を中心として
分科会: 星形成・惑星系  8月1日 17:30-18:30 講師: 田村 元秀 (国立天文台)
 生命を宿す惑星、地球。このようなハビタブルプラネットは、広い宇宙にどれくらいあるのか?これは人類が抱く根源的・普遍的な問いと言っても過言ではない。1995年の発見をきっかけに、太陽系内には8個しかない惑星が、太陽以外の恒星の周りに、有望な候補も入れると既に3000個以上もの系外惑星が見つかっている。その探査・研究は、わずか15年ほどで現代天文学の最重要研究課題のひとつとなった。
 系外惑星は太陽系の広がりと比べると遠方にあるため、写真のように画像に写す「直接撮像」によって観測することは非常に困難だった。そこで、惑星からの光を直接に捉えるのではない「間接観測」である視線速度法(ドップラー法)やトランジット法がまず成功し、今もっとも活躍している。また、マイクロレンズ法やタイミング法なども成功しており、多彩な観測手法により系外惑星の多様性が際立ってきた。いっぽう、最近の著しい技術革新により高コントラスト観測が可能となった。その結果、8mクラス望遠鏡では巨大惑星の直接撮像にも成功し、「百聞は一見にしかず」という系外惑星の直接観測の時代も到来した。
 2009年に打ち上げられたNASAのケプラー衛星は宇宙からの超精密トランジット観測を実現し、間接法ながらも地球型惑星の観測に迫っている。2011年の報告では、約2300個の惑星候補が発表され、そのうち約50個がハビタブルプラネット候補とされた。また、すばる望遠鏡ではドップラー法を赤外線波長に展開し、軽い恒星のまわりの地球型惑星を検出するための開発も進んでいる。次のステップとして、将来の地上30メートル望遠鏡と工夫を凝らした観測装置、さらには、スペースにおける専用高コントラスト望遠鏡によって、そのような第二の地球の候補を初めて直接観測し、そこに生命の兆候を探ることも可能になるだろう。"

惑星形成理論への招待
分科会: 星形成・惑星系  8月3日 9:00-10:00 講師: 奥住 聡 (名古屋大学)
 近年の観測の進展に伴い、系外惑星や原始惑星系円盤についてのより高質・より大量の情報が得られるようになってきている。これらの観測事実を説明・解釈し、さらに今後の観測の指針となる理論的予言を与えることが、現在の惑星形成理論の1つの大目標である。一方で、観測では直接見ることが難しい惑星形成素過程があることも事実である。これらのプロセスを理論・実験を通じて理解し、惑星形成シナリオを矛盾無く組み立てていくことも、依然として重要な作業である。この講演では、惑星形成理論の基本的な枠組み、重要な物理素過程、さらに多くの人材の新規参入の必要性について、3部構成で概説を行う。まず講演第1部では、惑星形成過程を「質量40桁にわたる固体進化過程」という観点から概観し、その前期過程(ダスト〜微惑星:約30桁)と後期過程(微惑星〜惑星:約10桁)のそれぞれに対する現状の理解と未解決問題を整理する。第2部では、惑星形成において本質的に重要となる「固体とガスの相互作用」の素過程について概説する。ガスの及ぼす摩擦力や重力は、固体の運動に大きな影響を与え、固体の成長の結末をも決定づける。一方で、固体がガスの運動を不安定化することもあれば、逆に安定化することもある。ここでは、このような双方向プロセスの1つの例である「ダストと磁気乱流の共進化」を中心に、講演者のこれまでの研究成果を交えながら議論する。第3部では、惑星形成理論への若い人材の新規参入について議論する。端的に言って、惑星形成論は人手不足である。講演では、講演者が5年くらい前(D1)まで相対論の研究をやっていたこと、その後いろんなご縁で惑星形成をやり始めたこと、などの私的事情について概説し、星惑星分野の人・そうでない人の両方に対して、惑星形成理論への新規参入の攻めどころなどを議論する。当日の講演の時間的都合などに応じて、第3部は夜の分科会に延長する場合がある。

ミリ波で見る誘発的星形成
分科会: 星形成・惑星系  8月3日 17:15-18:15 講師: 丹羽 隆裕(八戸高専)
 星は分子雲の収縮によって形成されることが分かっている。分子雲が収縮する過程では分子雲自身の重力(自己重力)が最も大きな力だが、分子雲の外からの圧力によって、収縮が促進される星形成の過程がある。これを「誘発的星形成」と呼んでいる。分子雲の外からの圧力には様々な種類がある。例えば、分子雲同士の衝突、超新星爆発の爆風による分子雲の掃き集め、大質量星の紫外線や星風による分子雲の圧縮などである。
 誘発的星形成は、星形成の研究の中では比較的歴史が浅い。当初は大質量星が誘発的に形成されることしか知られていなかったが、近年の観測装置の発達で、太陽質量以下の天体、褐色矮星に至る低質量星も誘発的に形成されることが分かり、星形成全体の中でも重要な過程であることが分かっている。しかし、誘発的星形成で形成された星の初期質量がどのように決まるかなど、自己重力のみの星形成と比べると、未知の部分多い。また、星の生産効率とも言える星形成率の評価が非常に難しい。なぜなら、分子雲が外側から受ける圧力は、分子雲の圧縮だけでなく、散逸にも寄与してしまうからである。
 今回は、大質量星の紫外線や星風による分子雲の圧縮と、「誘発的星形成」に着目する。 紫外線による圧縮に注目する理由は大きく三つある。一つは、大質量星は進化が早く、自身の紫外線で電離水素(HII)領域を形成すること。二つ目は大質量星の進化が速いため、周囲に分子雲が残されていることが多く、分子雲自身が紫外線によって圧縮されることである。このような圧縮は、オリオン星雲などの大質量星の形成領域では継続的に起きているため、紫外線に着目することは、誘発的星形成の研究に適していると言える。 三つ目の理由は、誘発的星形成の兆候を掴みやすい点にある。進化の早い大質量星の影響を受けて、遅れて星が形成されるため、形成された星は年代順に並ぶ。これらは赤外線での若い星の進化を追うことが可能である。また、近傍の大質量星の形成領域ならば、圧縮の傾向(密度など)をサブpcスケールで知ることができる。将来的にALMAなどの大型望遠鏡を用いるにも、格好のテーマと言える。
 本講演は、ミリ波による分子雲の観測結果を通して、誘発的星形成を概観する。また、観測データをどのように解釈して議論したか、その過程を含めて紹介する。



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